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東京地方裁判所 平成8年(特わ)302号 判決

裁判所書記官

鈴木友茲

本店所在地

東京都中野区大和町二丁目四九番一三号

三立建工株式会社

(右代表者代表取締役 東田貢)

本籍

埼玉県和光市南一丁目一三番

住居

埼玉県和光市南一丁目一三番号五三号

会社役員

東田貢

昭和四年四月一九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人、弁護人相川裕(主任)、森山満各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人三立建工株式会社を罰金一一〇〇万円に、被告人東田貢を懲役八月に処する。

被告人東田貢に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三立建工株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都中野区大和町二丁目四九番一三号に本店を置き、土木建築工事の設計、施工監督並びに請負業務等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成四年二月九日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人東田貢は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七二八二万三三〇円(別紙1の1の修正損益計算書及び同1の2の修正完成工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成四年一一月二六日、東京都中野区中野四丁目九番一五号所轄中野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二一三七万五八二円で、これに対する法人税額が六九〇万一五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第六〇九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二六一九万五二〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一九二九万三七〇〇円を免れ

第二  平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六五三二万二二三七円(別紙2の1の修正損益計算書及び同2の2の修正完成工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成五年一一月二六日、前記中野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五三四万四三〇七円で、これに対する法人税額が四七六万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第六〇九号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二三五〇万九九〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一八七四万一七〇〇円を免れ

第三  平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四一一〇万九八二八円(別紙3の1の修正損益計算書および同3の2の修正完成工事原価報告書参照)であったにもかかわらず、平成六年一一月二八日、前記中野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二八四万四〇四二円で、これに対する法人税額が三七四万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第六〇九号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一四三四万三五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額一〇五九万九四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判定における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通)

一  加々美恭子の検察官に対する供述調書

一  高須宣侑の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の役員報酬調査書、受取利息調査書、手数料調査書、道府県民税利子割調査書、事業税認定損調査書及び領置てん末書

一  検察事務官作成の「外注費」、「事業税認定損」及び「所轄税務署の所在地」についての各捜査報告書

一  中野税務署長作成の証拠品提出書

一  東京法務局中野出張所登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(二通)

判示第一、第二の事実につき

一  検察事務官作成の「雑収入」及び「雑収入報告書の訂正」についての各捜査報告書

判示第一の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第六〇九号の1)

判示第二の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第六〇九号の2)

判示第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の雑損失調査書

一  検察事務官作成の「雑損失調査書の訂正」についての捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第六〇九号の3)

(適用法令)

罰条〔但し、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号付則二条一項本文により、同法による改正前のものを指す〕

被告会社につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項

刑種の選択

被告人につき 懲役刑

併合罪の処理

被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)

被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予

被告人につき 刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告人が、喉頭癌の手術により一時声が出なくなって筆談を余儀なくされたり、声が出せるようになっても音声は明瞭でなく、日常生活にも介護が必要な状況に陥り、被告会社の事業や自己の老後に強い不安を抱いたことなどが主な動機となって、土木建設工事の設計、施工監督並びに請負業務などの被告会社の業務に関し、被告人自ら、架空外注先用に預金口座を開設し、経理担当員をして架空外注費を振込送金をさせるなどして、三事業年度にわたり過少申告により所得を少なくみせかけ、合計四八六三万円余の法人税を脱税した事案であり、そのほ脱率は、通算約七五・九パーセントに達している。右脱税額の大きさ、ほ脱率、ほ脱の犯行態様が計画的で、周到であることに加えて、この種事案に対する一般予防が強く求められている現在の社会状況等を勘案すると、被告人らの刑事責任を軽く考えることはできない。

ただ、被告人は、今日まで前科前歴なく真面目に稼働して来た市民で、本件を深く反省し、被告会社は、脱税した事業年度の国税及び地方税等の本税及び附帯税の一部を支払い、残部を分割して支払う旨誓っている。

また、被告人は、今回の事件の判決を契機に息子に被告会社代表取締役の地位を譲り、老後は、同人の世話になるほかないと考えを改め、被告人の息子も被告会社の今後の納税につき責任を持って履行し、被告人の意思に従う旨当法廷で誓っている。

当裁判所は、以上、被告人らの本件犯行後の改悛の情や改善策に、被告人が喉頭癌でなお介護を必要とする身体障害者の立場にあることなど一切の事情を考慮して、主文のとおり判決する。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑、被告会社・罰金一五〇〇万円、被告人・懲役一〇月)

(裁判官 大谷吉史)

別紙1の1

修正損益計算書

No.1

〈省略〉

別紙1の2

No.1-2

〈省略〉

別紙2の1

修正損益計算書

No.2

〈省略〉

別紙2の2

No.2-2

〈省略〉

別紙3の1

修正損益計算書

No.3

〈省略〉

別紙3の2

No.3-2

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

三立建工株式会社

(1) 自 平成3年10月1日

至 平成4年9月30日

〈省略〉

(2) 自 平成4年10月1日

至 平成5年9月30日

〈省略〉

(3) 自 平成5年10月1日

至 平成6年9月30日

〈省略〉

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